技術は進歩しましたが、すべての人に公平に利益をもたらすわけではありません。特に医療分野での格差は命に直結します。人口は減少し、医療人材は首都圏に集中しています。地方の中小都市や島嶼地域の病院では、病床よりも先に医者がいなくなっています。高齢化で慢性疾患が増加しているのに、診療を受けるのが困難です。緊急の状況で「ゴールデンタイム」を逃すことも日常茶飯事です。
医療の空白は今や構造的な問題です。この隙間を埋める新しい解決策として人工知能(AI)が注目されています。単純な補助を超えて診断と予測、意思決定全般に関与するレベルです。特に映像分析、音声認識、予後予測技術は経験不足や人材不足によるエラーを減少させるのに強みを見せています。

AI医療技術は二つの軸に分かれます。1つは病院中心の映像診断補助システムです。CT、MRI、エックス線映像で肺炎、脳卒中、癌などの兆候を素早く判読します。もう1つは日常に基づいた予測・モニタリングシステムです。スマートウォッチや血糖計のような機器でリアルタイムに健康データを集め、パターンを分析してリスクを事前に警告します。特に高血圧、糖尿病、心臓病のように早期対応が重要な疾患で意味のある違いを生みます。
地方では単なる便宜ではなく「最低限の生命線」の役割を果たします。実際に一部の地域ではAIが搭載された映像診断システムが無医村の保健所に設置され、CTを撮影した後に判読は遠隔で行われ、必要であればAIが緊急度を自動判断して搬送の可否を決定します。これは専門人材が不足している地域でゴールデンタイムを確保する唯一の解決策となり得ます。
感染症の対応でもAIは意味のある機会を提供します。コロナ19以降、高リスク群の識別、拡散経路の予測、ワクチンの物流配分などでAIの活用可能性が確認されました。最近では気候変動と絡んだ新種の感染症の拡散を予測するためにAI基盤の流行シミュレーションシステムを適用する試みも続けられています。
しかしAI基盤技術は万能ではありません。医療AIの正確度は学習データの質に左右され、データの偏りや誤りの可能性は依然として存在します。また「医療判断」という高度な倫理的判断を技術に任せることに対する社会的共感も不足しています。AIが導き出した判断を医療人がいつ、どのように受け入れるのかに対する基準もはっきりしません。
また最も現実的な壁は制度です。AIを基盤とした遠隔医療や非対面診断は韓国では医療法の制約を受けています。技術は準備されていますが、法と制度が追いついていないという皮肉が依然として解消されていません。このままでは技術はあるが使えない「展示用革新」にとどまる可能性があります。
AIは医者を代替するものではありません。しかし医者がいない場所で、または判断が危うい瞬間に、決定的な役割を果たすことができます。技術は「可能性」を作り、制度はその可能性を「現実」にします。AI医療技術が全国どの裏通り、どの村でも作動できるようになるためには規制と政策が支えられるべきです。
今必要なのは単なる技術の進歩ではありません。技術は依然としてより精巧になるべきであり、同時に誰もがその恩恵に触れることができるべきです。命と健康は住む場所や収入によって異なってはなりません。ただしその可能性を実現するためには技術の発展と共に制度的な支援が同時に行われるべきです。今必要なのは「準備」ではなく「実行」です。