ビットコインを最も多く保有する会社が、最も売らないはずだった約束を破った。代表的なデジタル資産財務企業(DAT)のストラテジーが、過去最大規模でビットコインを売却した。市場が注目するのは売却そのものより、売らざるを得なかった構造だ。
DATとは、会社の資金でコインを買い集め、企業価値を高める会社を指す。ストラテジーはその元祖格だ。本業はソフトウェアだが、同社の価値は実質的に金庫に積まれたビットコインが左右する。コインが上昇すれば株価はさらに大きく上がり、下落すれば逆に動くレバレッジ構造だ。
マイケル・セイラー・ストラテジー会長は6日(現地時間)、SNSのXで「ビットコイン3588枚を売却し、デジタル信用証券の配当支払いに2億1600万ドルを使った」と明らかにした。米証券取引委員会(SEC)への提出書類によると、同社は先月29~30日に1363枚を平均5万9256ドルで、今月1~5日に2225枚を平均6万773ドルでそれぞれ売却した。
◆ 損切り20%…数字で見た2回の売却
今回の売却で痛いのは価格だ。5日時点でストラテジーのビットコイン平均取得単価は1枚あたり7万5476ドル。今回の平均売却価格はこれより約20%低い。高い時に買って、下がってから売った形だ。ビットコイン懐疑論者の金融評論家ピーター・シフは「買う時は高値、売る時は安値だ」と皮肉った。
規模も桁違いだ。ストラテジーの最初の売却は今年5月の32枚だった。2か月もたたないうちに100倍超の量を処分したことになる。今回の売却で保有量は84万7363枚から84万3775枚に減った。累積取得額は636億9000万ドルに達する。帳簿上の痛手も深い。同社は今年第2四半期のデジタル資産部門で83億2000万ドルの損失を記録した。その大半(83億1000万ドル)は、まだ売却していない保有分の評価損だ。
◆ ドルで回る請求書…「売らない」約束が崩れた構造
セイラー会長はこれまでXで「ビットコインは絶対に売らない」と何度も公言してきた。その約束が崩れた原因は、同社のビジネスモデルにあるとの分析が出ている。
ストラテジーは優先株や社債を売って調達した資金でビットコインを買い集める会社だ。問題は、優先株が無料資金ではないことだ。同社が発行した優先株5種は毎月、または四半期ごとにドル建てで配当を支払わなければならない。最上位の証券には年10%の固定配当が付く。コイン価格が上昇し、株価に上乗せがついていた時代には、新株発行で配当原資を確保できた。ビットコインが高値から半値近くまで下がった今、その道は狭まった。残る選択肢が金庫の中のコインだったというわけだ。
実際、公表資料にもその兆候が示されていた。同社は売却が行われた週に、新株発行プログラムで株式を1株も売らず、自社株買いも行わなかった。株式を発行して現金を得る経路が事実上止まった状態で、配当の期限が迫っていたとみられる。
セイラー会長の説明は異なる。彼は今回の売却を後退ではなく、優先株投資家への約束履行と位置づけた。先の初回売却時には「自社の信用証券を世界最高の商品にすることが目標だ」と述べていた。配当を滞らせない会社だという信頼が、長期的には調達コストを下げるという理屈だ。実際、同社は5日時点で25億5000万ドル規模のドル準備金を、配当と利払い専用として積み立てている。
◆ 12億ドル売却枠…市場が警戒する理由
市場の視線が集まるのは次の売却可能性だ。ストラテジーの取締役会は先月29日、「ビットコイン収益化プログラム」を承認した。ドル準備金の拡充、配当支払い、自社株買いのために、最大12億5000万ドル相当のビットコインを随時売却できる仕組みだ。今回の売却とは別に、上限枠はまだそのまま残っている。必要ならさらに売るという方針が文書化されたことになる。
この動きが単なる個社問題で終わらないのは、その規模にある。ストラテジーが保有する84万枚超は、ビットコインの総発行量の4%に相当する。最大の保有者が「買う側」から「売ることもある側」に立場を移した事実そのものが、市場心理を冷やす。
ストラテジーをまねてコインを買い集めた他の財務企業も、同じく配当・利払いの負担を抱えている。最初のドミノが倒れたのではないかという警戒論と、配当履行によってむしろモデルの信頼性が検証されたという反論が対立する局面だ。
ビットコインは8日午前、6万ドル前後で推移している。昨年10月の高値12万6000ドルと比べると半値水準だ。セイラー会長が守ったのは配当の約束で、破ったのは売却禁止の約束だった。二つの約束の間で、会社を支えるのがどちらかは、残る12億5000万ドルの枠が実際に使われるかどうかで決まる見通しだ。