ネイチャー・アストロノミーに29日掲載
クエーサーSDSS J0100+2802近くの銀河17個、金属量は太陽の3%
同時代の銀河の半分以下の重元素量
最初の星の超新星の灰だけが残ったガスを確認
「最初の星は宇宙誕生から10億年後まで生き残り、大銀河の周縁で生まれた」
主なポイント
▶ ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で初期宇宙を観測した国際研究チームが、宇宙誕生から約10億年後の時点で、重元素が際立って少ない銀河17個からなる集団を発見したと、29日(現地時間)にネイチャー・アストロノミーで発表した。
▶ 銀河の平均金属量は太陽の3%。同時代で、似た密度環境にある銀河と比べて半分以下だ。宇宙の重元素は星が作るため、金属が少ないということは、星の影響をあまり受けていない純粋なガスであることを意味する。
▶ 銀河集団のそばのガスからは、酸素に比べて炭素とケイ素が際立って多い元素比が確認された。これは、理論が予測する最初の星、すなわち種族IIIの星の超新星が残した灰と一致する。

宇宙で最初に輝いた星の痕跡とみられる銀河集団が見つかった。
デンマーク・コペンハーゲン大学ニールス・ボーア研究所傘下のコスミック・ドーン・センターの研究員、リ・ズーハオ氏、カキ・イチ・コウキ氏、リセ・クリステンセン氏が率いる国際研究チームは29日(現地時間)、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を使い、宇宙誕生から約10億年後の時点で重元素が際立って少ない銀河17個からなる集団を発見したと、学術誌ネイチャー・アストロノミーで発表した。
中国の清華大学、イタリアのトリエステ天文台とフィレンツェ大学、ドイツのマックス・プランク天文学研究所、米国のアリゾナ大学・ミシガン大学など、11カ国の研究者27人が参加し、韓国高等科学院物理学部の研究者1人も共著者に名を連ねた。
銀河集団のそばのガスからは、理論が予測する最初の星の超新星が残した灰と一致する元素比が確認された。論文のタイトルは「再電離の終わり近くにある金属量の少ない銀河過密領域に残された最初の星の痕跡」だ。
◆ 最初の星を見つけられるか

ビッグバン直後の宇宙には、水素とヘリウムしかなかった。炭素、酸素、鉄などの重元素は、すべて星の内部で作られた。
天文学では、ヘリウムより重い元素をまとめて金属と呼ぶ。そのため、宇宙で最初の星は金属をまったく含まないガスから生まれた。
天文学者は最初の星の世代を「種族IIIの星」と呼ぶ。太陽のように金属を多く含む星が種族I、その前の世代が種族IIで、最初の星が種族IIIだ。番号が逆順なのは、発見された順番に付けられたためである。
種族IIIの星は、理論上の存在にとどまっている。金属を含まないガスは冷えにくく、星が集まるには大きな塊が必要だった。そのため、太陽の数十倍から数百倍もの質量を持つ巨大な星になったと考えられている。そうした大質量星は、数百万年で超新星爆発を起こす。
ビッグバンから数億年以内にすべて消滅したため、現在の望遠鏡では見られないというのが長年の定説だった。しかし、方法はある。最初の星が爆発してまき散らした灰を探すのだ。最初の星の超新星は、酸素に比べて炭素とケイ素を際立って多く放出すると理論は予測している。その元素比を持つガスを見つければ、そこに最初の星が存在したことを示す証拠になる。
◆ 128億年前の光を灯りに

研究チームが灯りとして利用したのはクエーサーだ。クエーサーは、銀河中心の巨大ブラックホールが周囲の物質を飲み込み、銀河全体よりも明るく輝く天体である。
観測対象は、うお座とアンドロメダ座の間にあるクエーサーSDSS J0100+2802。ビッグバンから10億年以内の宇宙で知られている、最も明るいクエーサーだ。ウェッブ望遠鏡の初期宇宙観測プログラム「EIGER」が2022年から観測を続けてきた。
原理は懐中電灯と同じだ。クエーサーの光が地球に届く途中でガス雲を通過すると、ガス中の元素が特定の波長の光を吸収する。光を波長ごとに分けると、吸収された部分が黒い線として残る。どの波長がどれほど吸収されたかを測れば、そのガスにどの元素がどれほど含まれるかが分かる。
研究チームは、ヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡に搭載された分光器で得たクエーサーのスペクトルから、赤方偏移5.945の位置にあるガス雲を特定した。赤方偏移は、宇宙膨張によって光が引き伸ばされた程度を示す。5.945という値は、その光が約128億年前に出発したことを意味する。宇宙の年齢に換算すると、約9億5,000万年である。
ビッグバン後の宇宙はしばらく中性水素の霧に覆われていたが、最初の星や銀河が放つ紫外線によって霧が晴れていった。天文学ではこの時期を「再電離期」と呼び、宇宙誕生から約10億年後に終わったと考えられている。
赤方偏移5.945は、霧がほぼ晴れた終盤に当たる。研究チームはクエーサーのスペクトルから、ガス雲の手前と奥で光がよく通る領域を確認し、ガス雲の周囲はすでに電離した広大な泡の中にあり、近くの天体から強い放射を受けていると判断した。最初の星の灰が残っていた場所は人里離れたところではなく、星や銀河が活発に輝く地域だったことを意味する。
そのガス雲では、酸素に比べて炭素とケイ素が際立って多かった。これは、最初の星の超新星が残すと予測される元素比だ。研究チームは、最初の星と種族IIの星の超新星がどれほど元素を放出するかを計算したモデルと比較し、主に最初の星の灰が混ざったガスだと判断した。比較のため、同じデータから種族IIの星の超新星の灰に特徴的な元素比を持つガス雲も一つ選び出した。
◆ 灰だけでなく、周囲の環境も見つかった
次の問いは、そのガスの近くに何があるのかということだった。研究チームはウェッブ望遠鏡の近赤外線カメラでクエーサー周辺の空を広範囲に撮影し、同じ距離にある銀河を選び出した。近くの銀河をまとめる計算を行うと、最初の星の灰があるガス雲の周囲に銀河17個が集まっていた。初期宇宙でこれほど銀河が密集した場所は珍しい。
銀河の選別には、ウェッブ望遠鏡のスリットレス分光機能が使われた。望遠鏡の視野内にあるすべての天体の光を一度に波長ごとに分ける方式で、銀河を一つずつ狙わなくても、広い空の中から特定の波長の光を放つ天体をまとめて選び出せる。
研究チームは、酸素イオンが放つ輝線を目印にした。若い星の多い銀河では酸素イオンの輝線が強く、その波長がどれほど伸びているかから距離を求められる。クエーサー周辺で酸素の輝線が検出された銀河のうち、赤方偏移がガス雲と同じものを絞り込むと、17個が一つの集団にまとまった。
銀河17個のスペクトルを重ねて平均金属量を測定したところ、太陽の約3%だった。同時代で、銀河が同程度に密集した別の領域と比べると、0.4デックス、つまり半分以下だった。
デックスは10倍を1として数える単位で、0.4デックスは約2.5倍の差に相当する。クエーサー周辺には同時代の銀河過密領域がほかに三つあるが、そこにある銀河の金属量ははるかに多かった。最初の星の灰が残るガス雲の近くだけに、際立って金属量の少ない銀河が集まっていた。
研究チームは、この二つの事実は関連していると考えた。銀河自体の金属量が少ないため、周辺のガスも後の世代の星が残した灰による汚染が少なく、最初の星の痕跡が消えずに残ったという。ガス雲から最も近い銀河までの距離は約238キロパーセク、約78万光年。最初の星の灰は銀河の中心ではなく、かなり外側にあった。
◆ 最初の星は、思ったより遅い時期まで生まれていた

最も重要な意味を持つのは、その時期だ。宇宙誕生から10億年後といえば、最初の星がすべて消滅していてもおかしくない時間が経過している。それにもかかわらず、最初の星の灰が銀河集団の近くに残っていた。
研究チームは、最初の星がその頃までまばらに生まれ続けていたか、最初の星の灰が混ざったガスが長期間生き残ったと解釈した。コンピューターシミュレーションでは以前から、最初の星が宇宙誕生から6億~10億年後まで存在し得ると予測されてきた。理論と観測が一致したことになる。
研究チームは、銀河集団を取り巻く暗黒物質ハローの最小質量を、太陽の約500億倍と推定した。
ハローは銀河を取り巻く見えない物質の塊で、銀河が成長するゆりかごだ。その規模の大きなハローの中には、すでに複数世代の星が生まれた銀河が存在する。
そのような場所の周縁で最初の星が生まれるには、二つの可能性がある。一つは、すでに発達した銀河の外側に金属を含まないガスの塊が残り、遅れて星を生んだというものだ。
前の世代の星が放つ紫外線がガスの冷却を妨げ、星の誕生を遅らせた可能性がある。もう一つは、小さな衛星ハローで最初の星が先に生まれ、そのハローが大きな銀河に合体したというものだ。研究チームは、どちらのシナリオも観測結果と矛盾しないとしている。
◆ 最初の星を探す別の方法
最初の星を探す試みは、いくつもの方向から進められている。一つは、最初の星が放つ光そのものを捉える方法だ。
最初の星のような高温の星は、ヘリウムイオンが放つ波長1640オングストロームの光を強く放射する。金属の吸収線がなく、その光だけを放つ銀河があれば、最初の星がまさに生まれている証拠となる。研究チームは、赤方偏移11付近でそのような銀河候補が報告されたことがあると指摘した。
もう一つの方法は、初期銀河そのもののガスを測定することだ。デンマーク・コペンハーゲン大学のコスミック・ドーン・センターの研究チームは6月、ウェッブ望遠鏡でビッグバンから5億~6億年後の銀河3個の吸収線を分析し、酸素より炭素が多い元素比を見つけたとする論文を発表した。方法は異なるが、結論は同じ方向を指している。
今回の論文は、三つ目の方法を切り開く。クエーサーを灯りとして銀河の外側にあるガスを測り、そのガスの近くにある銀河集団の金属量も合わせて調べる方法だ。
銀河の内部は、最近生まれた星の光に隠され、古い痕跡が埋もれやすい。一方、銀河の外側にある冷たいガスは、その痕跡をより長く保存する。研究チームは、金属量の少ない銀河の周辺ガスの元素比を測る方法が、最初の星の痕跡を追跡する有望な手段だと述べた。
◆ 何を見て、何を見ていないのか
研究チームは最初の星を直接見たわけではない。最初の星が残したと推定される元素比を通じて、その痕跡を探したのだ。観測された元素比が、最初の星による化学的濃縮モデルと一致したということであり、最初の星の存在を直接確認したわけではない。
研究チームも、これを直接検出ではなく「痕跡(imprints)」と表現している。論文の事前公開版のタイトルでは、「化学的特徴の可能性(Possible chemical signatures)」という表現が使われていた。
銀河の金属量を測る方法に伴う不確実性もあるが、研究チームが別の補正方法と比較した結果、測定値の差は統計的な不確実性の範囲内だった。
今後の課題は、同じ方法をさらに多くの初期宇宙の環境に適用することだ。ウェッブ望遠鏡を使ったASPIREはクエーサー25カ所、EIGERは6カ所を観測し、初期宇宙の銀河データを蓄積してきた。
最初の星の化学的痕跡が残るガスをさらに見つけ、その周辺銀河の特徴とともに分析すれば、最初の星がいつまで、どのような環境で生まれたのかを絞り込める。宇宙に初めて火がともった時代を、星が残した元素の痕跡からたどる研究が進んでいる。