赤字企業の一社が、世界の資本市場の歴史を書き換えた。
イーロン・マスク率いる宇宙・人工知能(AI)企業スペースXが12日(現地時間)、米ナスダックに上場した。株式コードは「SPCX」。公募価格は1株135ドルだったが、取引は150ドルで始まり、初日には19%急騰して時価総額2兆1,200億ドル(約320兆円)を記録した。取引時間中には一時30%超上昇し、企業価値は2兆2,500億ドルまで膨らんだ。
今回の上場で生まれた記録は一つや二つではない。スペースXは5億5,556万株を売り、750億ドル(約114兆円)を調達した。
2019年にサウジアラビア国営石油会社アラムコが打ち立てた294億ドルの記録を大きく上回る、史上最大の新規株式公開(IPO)だ。
時価総額ではエヌビディア、アルファベット、アップル、マイクロソフト、アマゾンに次ぐ世界6位となった。創業者マスクの資産は1兆ドル(約150兆円)を超えた。人類史上初の「兆万長者」の誕生である。
華やかな数字の裏には、事業モデルの変化がある。2002年に始まったスペースXは、使い捨てだったロケットを回収して再利用する技術で宇宙打ち上げ費用を引き下げたロケット企業だった。
しかし現在、同社の収益の大半はロケットではなく、衛星インターネット事業スターリンクから生まれている。地上に光ファイバー網を敷きにくい地域に、人工衛星でインターネットを提供する事業で、世界中の加入者を急速に増やしてきた。
変身は宇宙で止まらなかった。スペースXは今年2月、マスクのAIスタートアップxAIを買収した。この過程で、データセンターと生成AIモデル「Grok」、ソーシャルメディアプラットフォームX(旧ツイッター)がスペースXの事業群に加わった。ロケット、衛星、AI、ソーシャルメディアを一つの会社が束ねる複合企業となったのだ。
マスクが描く構想はさらに大きい。彼は調達資金で通信衛星10万基以上を地球軌道に配置し、宇宙にAIデータセンターを建設すると明らかにした。
地上の電力逼迫や冷却問題から自由な宇宙空間を、AI計算の舞台にしようという構想だ。市場がスペースXを宇宙企業ではなく、衛星通信とAIインフラを結びつけた次世代プラットフォーム企業とみなす理由がここにある。
問題は、こうした評価が黒字ではなく赤字の上に成り立っていることだ。目論見書によると、スペースXは2002年の設立以来、累計413億ドル(約56兆円)の損失を積み上げてきた。
衛星を打ち上げ、次世代ロケット「スターシップ」を開発するために巨額資金を投じてきた結果だ。通常、企業価値は稼ぎ出す利益を基準に評価されるが、スペースXの3,200兆円は現在の実績ではなく、将来性に付けられた価格である。
こうした評価が可能だった背景には、AI投資熱がある。4カ月続く中東戦争にもかかわらず米国株式市場が過去最高値を更新しているのは、AI関連企業のおかげだ。
ゴールドマン・サックスのジョン・ウォルドロン社長は、今回の上場について、AI好況に資金を供給しようとする市場の強い需要を示すシグナルだと評価した。
ナスダック元会長ロバート・グライフェルトは、この会社の株式が業績ではなく、人類が今後成し遂げられるという希望の上で取引されていると指摘した。未来への期待こそが、そのまま価格になったというわけだ。
マスクは支配力もがっちり確保した。一般投資家が持つ株式は1株1票だが、マスク保有株は1株10票の議決権を持つ差別議決権構造だ。上場後も彼は会社の議決権の約85%を維持する。アルファベットとメタが採用した方式で、資金は市場から調達しつつ、経営権は創業者が手放さない設計である。
上場は終わりではなく、試験の始まりだ。赤字企業に付けられた3,200兆円の企業価値が正当かどうかは、これから四半期ごとに公表される業績が答えを出すことになる。
衛星10万基の配備と宇宙データセンターは依然として構想段階の青写真であり、次世代ロケット・スターシップの商業化も証明すべき課題だ。期待が現実の利益へ転換できなければ、未来価値に依存した株価はその分だけ速く揺らぐ可能性がある。
市場の視線は次の主役にも向かっている。グライフェルト元会長は、オープンAIやアンソロピックのようなAI企業が今年、スペースXに続いて上場市場の門を通るだろうと見込んだ。史上最大のIPOの成功が、AI時代の大型上場への扉を開いたという解釈だ。
韓国の投資家にとっても他人事ではない。スペースXは公募株の約30%を一般投資家に配分する案を示しており、衛星通信とAIインフラという成長ストーリーは韓国の関連産業にも波及する。
ただし、実績ではなく熱望に支えられた株価という見方も共存しているだけに、記録的デビューの熱気と、赤字企業という冷厳な事実をともに天秤にかけるべき時期だ。