21カ国の人事責任者1,500人・28カ国の会社員8,800人を対象に調査
人事責任者の71%が「AIの結果を検証し、覆す能力が重要」と回答。一方、同意した社員は29%にとどまった。
▶ IBM企業価値研究所が21日(現地時間)に発表した調査で、会社員の60%がAIによって自分の能力が低下するのではないかと心配していると回答した。
▶ 最高人事責任者(CHRO)の71%は、AIが出した結果を監督・検証し、必要に応じて覆す能力を最も重要なスキルとして挙げた。
▶ 社員の43%は、AIが誤った場合、その責任が自分に及ぶと回答した。人事責任者の41%は、社員がAIの結果に異議を唱えたり、それを覆したりすることに不安を感じる可能性があるとみている。

AIが会社員の仕事を急速に代替している一方で、企業が求めている能力は「AIを上手に使う技術」だけではなかった。AIが出した答えが正しいかを検討し、誤っていた場合に止めたり、別の判断を下したりする人間の判断力が、より重要になっていることが調査で明らかになった。
問題は、社員の考えと会社の期待との間に大きな差があることだ。
IBM企業価値研究所(IBV)が21日(現地時間)に公表した調査によると、最高人事責任者(CHRO)の71%が、AIの回答を確認し、誤っていた場合に修正する能力を社員に最も必要なスキルとして挙げた。一方、自ら判断する能力が重要だと考えた社員は29%にとどまった。
IBMはオックスフォード・エコノミクスと共同で、今年4月から6月にかけて調査を実施した。21カ国・23業種の人事責任者1,500人と、28カ国の正社員8,800人が参加した。
◆「AIを使っているうちに考える力が低下した」

社員が最も懸念しているのは、AIに仕事を任せることで自分の能力が低下することだった。
社員の60%が、AIによって業務能力が低下するのではないかと心配していると回答した。このうち4人に3人は、単なる懸念にとどまらず、すでに一部の能力が低下し始めたと感じていた。
最も多く挙げられたのは批判的思考だった。AIが出した答えを受け入れることを繰り返すうちに、自ら問題を検討し、答えを見つける力が弱まる可能性があるということだ。
会社も同じ問題を感じていた。人事責任者の46%が、AIの使用による社員の能力低下を主な懸念事項として挙げた。批判的思考と、問題を正確に定義する能力がAI時代に重要だという回答も、社員で49%、人事責任者で57%と高い割合を示した。
ただし、会社が社員に期待する水準はさらに高かった。人事責任者の71%が、AIの回答を検証し、必要なら拒否できる能力を中核的なスキルとみなした一方、判断力が重要だと考えた社員は29%だった。
AIを使うことと、AIの判断を信頼することは別の問題だという結果も出た。
業務の過程で人間が必ず判断しなければならない段階を明確に定めている企業では、人事責任者の62%が、社員のAIに基づく意思決定への信頼が高まっていると回答した。反対に、こうした基準がない企業では、57%が社員の信頼が低下しているとみていた。
◆AIが間違っても、責任は結局社員に
AIが業務に深く入り込むことで、新たな問題も生じている。AIが誤った答えを出した場合、誰が責任を負うべきかが明確でないということだ。
社員の43%は、AIを使って問題が発生しても、結局は自分が責任を負うことになると回答した。
だからといって、社員がAIの判断を自由に拒否できるわけでもなかった。人事責任者の41%は、社員がAIの結果に異議を唱えたり、それを無視して別の判断を下したりすることに負担を感じる可能性があるとみていた。人事責任者の36%は、責任の所在が明確でないこと自体が、企業によるAI導入を難しくしていると回答した。
会社が責任と権限をどのように定めたかによって、社員の反応は大きく異なった。
どの決定までを人間が直接下すべきかを決める過程に人事責任者が共同で参加している企業では、社員の76%が、AIの提案に疑問を呈したり従わなかったりしても安全だと感じていた。
人事部門が意見を述べるだけの企業では、この割合は43%にとどまった。
結局、社員にAIの結果を検証するよう求めるなら、誤ったAIの判断を拒否できる権限も同時に与えなければならないということだ。
◆AIが仕事を減らすどころか、新たな仕事が生まれた
AIの導入が社員の仕事を必ずしも減らすわけではなかった。人事責任者の80%は、AI導入後、従来は存在しなかった「見えない業務」が生まれていると回答した。
AIが出した答えが正しいかを確認し、誤りを修正し、AIが把握していない状況を説明し、予想外の例外に対応する業務だ。AIが下書きを作成する時間は短縮されても、その結果を人間が確認し、修正する新たな仕事が生まれているのである。
社員の42%は、AIによってむしろ業務量が増えた、またはAIに関連して自分が行っている仕事が適切に評価されていないと回答した。
AIによって節約された時間と費用を社員に再投資する企業も、半数に満たなかった。人事責任者の42%だけが、AIによる生産性向上の成果を新規事業や社員の再教育に主に投資していると回答した。
◆AIが担う仕事と人間が担う仕事
AIを多く導入した企業よりも、人間とAIの役割を明確に分けた企業の方が成果を上げているという結果も出た。
業務を「人間が直接行う仕事」「AIの支援を受けて人間が行う仕事」「AIが処理する仕事」に明確に区分した企業は、そうでない企業に比べてリスクが18%減少し、成果物の品質が20%向上したと回答した。
人事部門がAIの管理原則やシステム、成果測定の仕組みを適切に整備している企業は、他の企業に比べて、肯定的な経営指標をより多く記録したと回答する可能性も約2倍高かった。
ニッケル・ラモロー(Nickle LaMoreaux)IBM最高人事責任者は、「AIが反復的で手順化された業務を担うほど、人間にしかできない能力が一層重要になる」と述べた。
今回の調査結果は、企業のAI競争力が、AIをどれだけ多く導入したかだけで決まるものではないことを示している。AIがどこまで決定できるのか、いつ人間が介入すべきなのか、問題が発生した場合に誰が責任を負うのかを、併せて定めなければならないということだ。