世界最大の受託生産企業、台湾TSMCが従業員への報酬カードを切った。今年の業績連動賞与を平均30%以上引き上げるという約束だ。社内に広がっていた不満を鎮めるための措置である。
魏哲家会長は27日、非公開のタウンホールミーティングで、台湾の従業員への利益分配金が平均30%超増えると確信していると述べた。ブルームバーグ通信が同日伝えた。最高経営責任者が自らマイクを握った。
◆サムスンが揺さぶった均衡
サムスン電子の労使は最近、全面ストライキ直前まで行きながらも、賃金・成果給の暫定合意案をまとめた。スト騒ぎは劇的に収束した。問題はその規模だった。
半導体部門の従業員1人当たり平均約34万ドル相当のボーナスが支給されるというニュースが伝わった。この数字が台湾に渡ると、波紋を呼んだ。正式な労組のないTSMC内部がざわついたのである。
人工知能ブームで過去最高益を出している会社が、報酬は期待に届いていないのではないかという疑問だった。懸念は社内オンラインフォーラムや匿名掲示板を通じて急速に広がった。一部の従業員の間では、サムスンのように声を上げるべきだという主張まで出た。
台湾の現地法では、集団ストライキのハードルは高い。それでも、動揺そのものが異例だと評価されている。労組という交渉窓口のない組織で不満が表面化したという点である。
◆会長が自ら前に出た理由
魏会長のタウンホールミーティングは、自ら求めた場だった。ボーナス引き上げ案を掲げ、従業員をなだめるために直接乗り出した。会社は公式コメントを控えつつも、今週初めの声明で、今年の利益分配の増加率が昨年の水準を上回るだろうと明らかにした。
こうした対応は、人材確保競争の一側面として受け止められている。半導体の微細工程技術は、結局のところ人から生まれる。AI時代に先端チップ需要が爆発する局面で、核心的なエンジニアの流出はそのまま技術競争力の流失につながる。報酬格差が広がれば、人材流出リスクも大きくなる。
魏会長はこれまで、価格政策において短期的な機会主義より長期的安定性を重視すると強調してきた。こうした経営方針を追い風に、TSMCは今年の売上総利益率を66%まで引き上げた。報酬を増やす余力は十分だという意味でもある。
◆数字が示す分配構造
TSMCの業績賞与は即興的な決定ではない。定款に明記されたルールに従う。
同社は年間純利益の最低1%を業績賞与の原資として積み立てることを規定している。2025年の利益分配プログラムには、前年より46.6%増の約1030億台湾ドル、日本円で約4930億円を割り当てている。純利益が増えれば分配も自動的に増える仕組みだ。
ブルームバーグは、TSMCが純利益の増加率と連動して賞与を拡大してきたため、今年も昨年より高い増加幅になると見込んだ。会長が約束した30%引き上げが口先だけではない理由である。
結局、今回の問題は単一企業のボーナス交渉にとどまらない。AIが押し上げた半導体の超好況の果実を、誰がどう分けるのかという問題である。過去最高益を上げる企業ほど、従業員報酬への社内期待も同時に高まる。台湾と韓国、二つの半導体大国の人材競争が、給与明細の上で本格化している。