工場ひとつが原発15基分の電力を食い、都市ひとつ分の水を使う。
龍仁クラスターも完成まで9年。水の確保だけでも最低7年かかる。
李在鎔・崔泰源両会長が「いつ」と言わなかった理由。
[核心ポイント]
▶ 半導体工場は、建てたいと思えばすぐ建てられる施設ではない。電力、用水、用地、人材の4条件が同時に整わなければならない。
▶ 龍仁クラスターで両社が使う電力は、原発15基分と推計される。工場ひとつが都市ひとつ分の電気と水を食う。
▶ 水はただの水ではない。不純物を極限まで取り除いた「超純水」が必要だ。専用導水路の確保だけで7〜10年かかる。
▶ 工場は単独では回らない。素材・部品・装置の協力企業と専門人材が一か所に集まってこそ成り立つ。この集積が競争力を生む。
▶ 両トップが投資時期を明言しなかったのは、これらの条件が整うまで慎重に進めるというシグナルと受け止められる。

2人とも「いつ」とは言わなかった。29日に青瓦台の国民報告会で、李在鎔サムスン電子会長と崔泰源SKグループ会長は湖南の半導体投資計画を明らかにした。しかし、いつ着工するかという約束はなかった。
言葉の代わりに、条件があった。李会長は光州を「候補地」とだけ表現した。崔会長は、用地と電力、用水、人材が整った場所に建てると述べた。半導体工場がそれだけ厄介な施設だという意味だ。建てたいからといって、どんな土地にでも建てられる建物ではない。
◆ なぜ両トップは時期を明言しなかったのか
発言を読み解くと、慎重さがにじむ。李会長は既存の生産拠点がある地域を具体的に挙げた。HBM工場は天安と温陽に集中させ、ロボットは亀尾に集めるという。一方、光州については「候補地として計画している」という表現にとどめた。電力と用水、人材、インフラなどへのインセンティブ支援が前提として置かれていた。
崔会長の話し方はさらに慎重だった。彼はまず「龍仁クラスターの造成に9年かかった」という事実を挙げた。続けて、半導体工場には大規模な用地と電力、用水、人材が必要だと説明した。その条件を満たせると期待される西南圏に約400兆ウォンを投資するとした。光州という地名は口にしなかった。
財界はこれを一斉にこう解釈した。10〜15年後に起きることを前もって発表すること自体、企業には負担だということだ。ある財界関係者は、両会長の発表について「首脳部と実務陣が一語一句まで慎重に選んだのは間違いない」と語った。
要点は4語に集約される。用地、電力、用水、人材。半導体工場の運命を左右する条件だ。ひとつでも欠ければ工場は動かない。両トップが時期を書き残さなかった空白には、実はこの4つの難題が入っていた。
◆ 都市ひとつを灯す電気、止まれば終わりだ
まず電気だ。半導体工場は電気を食う巨大施設として知られる。理由はある。
工場は年365日、1日24時間止まらない。その中の「クリーンルーム」は、ちり一つない超清浄空間だ。温度と湿度を寸分の狂いもなく保たなければならない。数千台の装置が休みなく稼働する。そこに必要な電力は途方もない。

さらに恐ろしいのは停電だ。電気が一瞬でも切れれば、作っていた製品を丸ごと廃棄しなければならない。半導体は髪の毛の太さの数千分の1単位で回路を刻む。工程の途中で電源が揺らげば、そのウェハーは不良品になる。ウェハーとは、半導体を刻む円形のシリコン原板だ。損失は一度に数百億ウォン規模に膨らむ。だから安定した電力供給が生命線になる。
規模を見ると圧倒される。龍仁半導体クラスターでサムスン電子とSKハイニックスが全面稼働した場合に必要な電力は15〜16ギガワット(GW)と推計される。原子力発電所15基が生み出す量に匹敵する。企画財政部は段階的な増設を考慮し、最終需要を約10GWとみている。それでも天文学的だ。2024年の国内最大電力需要の6分の1に当たる。
問題は、その電力をどこから持ってくるかだ。首都圏は自前の発電だけでは賄えない。結局、東海岸の原発と火力、湖南の再生エネルギーを首都圏まで送らなければならない。そのためには高圧送電網を新たに敷き、変電所を増やす必要がある。ここで対立が起きた。京畿道河南では変電所増設に住民が反発し、電子波や騒音を懸念する声が強かった。全国の送電網はすでに飽和状態に近い。
急場しのぎの対応として、工場内で当面の電力を確保することにした。龍仁団地内に1GW級の熱電併給発電所を建設し、液化天然ガス(LNG)発電所を移転して短期電力を賄う。しかしこれは暫定措置にすぎない。再生エネルギー由来の電気が不足していることも負担だ。グローバル顧客企業が「RE100」、すなわち再生可能エネルギーだけで作った製品を求めているからだ。電気を確保することは、量だけでなく質も問われる課題になった。
◆ 一滴も汚れてはいけない水

電気の次は水だ。半導体と水は切っても切れない。
ここで使う水は普通の水道水ではない。「超純水」と呼ばれる。不純物を極限まで取り除いた水だ。ミネラルも微生物もほとんど残さない。あまりにきれいで、そのまま飲めば体によくないほどだ。半導体回路は極めて微細なので、水に混じった微粒子ひとつでも不良の原因になる。
この水が最も使われる工程が洗浄だ。ウェハーに回路を刻む過程では、削って洗う作業を何十回も繰り返す。削り取った後に残ったかすを超純水で洗い流す。研磨や切断の工程にも水が使われる。工場1か所が使う水の量は、中小都市ひとつの生活用水を上回る。
数字で見ると実感しやすい。龍仁クラスターでは、2030年代半ばまでに1日あたり約100万トンの水が必要と推計される。政府は2034年までに2兆ウォン超を投じ、1日107万トン規模の用水施設を整備する方針だ。不足分はSKハイニックスが忠州ダム下流の南漢江に取水口を別途設けて補う。ある高位関係者はこの計画を「使える手段を総動員して、ようやく合わせたエクストリームな必死策」と表現した。
水の確保が難しい本当の理由は時間だ。これだけの量を引くための専用導水路と取水施設を整備するだけで、最低7年、長ければ10年以上かかる。立地が変われば、計画立案から地方自治体との協議、水系の調整まで、すべて最初からやり直しになる。
水路をめぐる対立も少なくない。漢江上流の江原道と忠北は用水供給に難色を示した。京畿東部の農村地域もすぐには協力しなかった。結局、かなりの量を八堂湖から引いて使う方向に固まった。サムスン電子とSKハイニックスは、使用後の水を浄化して再利用する割合を40%台まで引き上げ、負担を軽くしている。水一滴が半導体競争力を左右する時代だ。
◆ 土地と人、そして「一緒に集まってこそ生き残る」

3つ目は土地だ。半導体工場は巨大だ。ファブ1棟を建てるだけでも10万㎡を超える用地が必要で、これはサッカー場14面分の広さに相当する。龍仁国家産業団地は728万㎡の敷地に工場6基、発電所3基、協力企業60社以上を収める計画だ。
土地を選ぶのにも時間がかかる。用地の検討から確定まで、通常5〜7年を要する。単に広ければいいわけではない。電気と水を引けて、物流が通り、人が住める場所でなければならない。すべての条件を満たす土地は多くない。
しかも工場だけがぽつんとあってはならない。半導体は単独では作れない製品だ。素材・部品・装置を供給する協力会社が蜘蛛の巣のように絡み合っている。彼らが工場の近くに集まってこそ仕事が回る。装置が故障すればすぐ駆けつけて直し、新素材を迅速に供給しなければならない。このように一か所に集まることを集積という。クラスター、つまり集積団地という言葉はここから来た。
集積こそ競争力だ。徐鋒英・西江大学経済学部教授は「全面的に支援し、短期間で独自のエコシステムを作って集積効果を出すことが核心だ」と指摘した。しかし素材・部品・装置の企業は地方移転に慎重だ。核心拠点が首都圏と忠清に偏っているからだ。工場だけ移しても、生態系はついてこない。

最後は人だ。ある意味、最も難しい条件かもしれない。国内の半導体人材は2021年の17万人台から2031年には30万人台へ増える見通しだ。しかし同じ時期に8万人超が不足するとの予測もある。大学が毎年送り出す半導体専攻者は3000人前後にとどまり、需要にまったく追いつかない。
とりわけ博士級の研究人材は貴重だ。彼らは首都圏を離れたがらない。子どもの教育や医療、文化といった定住環境が足かせになる。ある業界関係者は、無理に生産拠点を分散すれば人材流出や転職につながると懸念した。工場ひとつを回すには、3000人超の専門家がその地域に根を下ろす必要がある。
解決の手がかりは海外にある。米国はアリゾナ、テキサス、オハイオに生産拠点を分けた。台湾も新竹を中心に台中、台南へと拠点を広げた。単一工場の競争から、サプライチェーンとエコシステムの競争へと変わる中で生まれた戦略だ。一か所に集めるより、地域ごとの特性に合わせて産業を根づかせるやり方である。
政府も湖南クラスターは龍仁の代替ではなく追加だと明言した。龍仁がメモリー生産の中核なら、地方は先端パッケージングとAI半導体、設計など次世代分野を担う分業構造だ。重要なのは順番である。工場を建てるという決意より先に、電気と水と人を整えることがなければならない。両トップが時期を空白にしたメッセージも、結局はそこにある。条件が整って初めて、着工するという意味と受け止められる。