サムスン電子は19日、サウジアラビアの首都リヤドやラマなど8つの主要都市にあるモスク100カ所余りに、高効率の冷暖房空調(HVAC)ソリューション約1000台を供給すると明らかにした。
供給製品は円形構造のシステムエアコン「360カセット」だ。宗教施設の空間特性を考慮し、空間全体に均一な冷房と静かな運転性能を提供すると同社は説明した。

◆ 角形ではなく円形……宗教施設の特性に合わせた設計
サムスン電子はこの製品に、従来の角形ではなく円形デザインを世界で初めて適用したと明らかにした。製品パネルにはイスラムの伝統文様を反映した。内部インテリアや建築様式との調和が重視される宗教施設である点を考慮した設計だという。
業界では、宗教施設の受注では性能仕様だけでなく、その空間が持つ文化的意味への理解が契約成立の要因になるとの見方が出ている。設備の外観が礼拝空間の雰囲気と合わなければ、性能が優れていても発注先に選ばれにくいという。
円形構造は四方に向かって均等に風を送り出す形だ。特定の方向に冷気が偏る現象を抑え、広い礼拝堂のどの席でも同程度の温度を維持するのに有利と評価されている。
デザイン変更が見た目にとどまらず、冷房の均一性という機能改善と結びついている点で、形状と性能を同時に設計した事例とみなされている。
低騒音設計も適用された。祈りと黙想が続く礼拝空間では、機械音が敏感な要素になることを反映したものとみられる。
イスラムの伝統文様を製品に反映したのは、発注先である宗教施設の運営主体の要求水準に合わせた対応と解釈される。設備が礼拝堂の天井に露出するため、外観が契約条件の一つとして扱われた可能性があるとの見方もある。
供給規模はモスク100カ所余りに1000台余りで、1カ所あたり平均10台ほどになる。業界では、個別施設への納品というより都市単位のプロジェクト受注に近い性格と評価されている。冷房設備を空間構成の一部として組み込んだ現地向け設計が、大型受注につながったという分析だ。
◆ ブースターファンと50度耐熱……高温・開放構造に対応

モスクは天井が高く、内部が開放された構造だ。一般的な天井型エアコンは、風向きを調整する羽根であるブレードに気流がぶつかり、勢いが失われる。冷気が遠くまで届かず、機器の真下に落ちるため、天井の高い空間では冷房効率が低下するとの指摘があった。
冷房負荷も大きい。外気温が高い地域では室内外の温度差が大きくなり、同じ面積でもより大きな冷房能力が求められる。開放型構造と高温気候が重なる条件で、均一な冷房を実現することが今回の供給における技術的課題だったと分析されている。
サムスン電子は、特許取得済みの「ブースターファン」技術で対応した。ブレードによる気流損失を減らし、冷気を水平方向に広く遠くへ送る技術だ。天井の高い開放型構造のモスクでも、冷気を空間全体に均等に届けられると同社は説明している。天井設置構造により、床面空間の活用度も高めた。
ブースターファンは、冷たい空気を水平方向に長く押し出し、空間全体に広げる方式で作動する。冷気が機器の真下だけにとどまる従来方式の限界を補う技術と評価されている。
室外機は外気温50度超の環境でも安定した冷房性能を発揮するよう設計された。夏季の気温が極端に上がるサウジの気候条件を考慮した仕様だ。冷房稼働時間が長い現地の特性上、高効率設備は施設運営費の削減要因になるとの分析もある。
冷房稼働時間が長くなるほど、施設が負担する電力消費コストも増える。同じ性能をより少ない電力で実現する高効率設備が、施設管理主体の選択基準になる背景でもある。
高温環境で実証された供給実績は、今後の中東や高温地域での受注において参考事例として活用される可能性も指摘されている。
◆ 6月の現地MOU……交通・教育に続き宗教施設へ拡大
サムスン電子は先月、モスクの改修事業を進める現地パートナー「ゴルス・チャリティ」と業務協約(MOU)を締結した。同社は今回の供給を機に、サウジ国内のモスクを対象とした供給協力を継続的に拡大していく計画だと明らかにした。
モスク改修事業を行うパートナーと協約を結んだことで、改修需要が続く施設を継続的な供給先として確保したという意味があるとの解釈が出ている。新築だけでなく、既存モスクの設備交換需要まで視野に入れた布石と評価される。
中東での企業間取引(B2B)実績は増加傾向にある。昨年はリヤドの公共交通施設にシステムエアコンを供給した。アラブ首長国連邦(UAE)ドバイの私立校「ロイヤル・グラマー・スクール・ギルフォード・ドバイ(RGSGD)」には、建物統合管理ソリューション「b.IoT」を供給した。交通や教育に続き、宗教施設へ供給先が広がった形だ。発注主体と施設の性格が異なる分野で実績を積み上げていく流れと解釈される。
イム・ソンテク副社長は、「今回の供給は、礼拝空間の特性と現地文化を反映したカスタマイズHVACソリューションの競争力を証明した事例だ」と語った。さらに「地域ごとの環境と顧客需要を反映した多様なHVACソリューションで、中東B2B HVAC事業を継続的に拡大していく」と強調した。
テレビや冷蔵庫など消費者向け家電の販売中心だった事業構造から、建物単位の設備供給へ重心を広げる流れとも重なるとの分析がある。
HVAC事業は、建物設計の段階から発注先と協議して設備を供給し、保守まで続く構造のため、契約単位が大きく、収益の流れが長いのが特徴だ。供給実績が後続受注の判断基準になるだけに、今回の契約は中東での追加受注の足がかりになるとの見方が出ている。
業界では、中東地域の建設・改修需要が継続する中、実証済みの供給実績を持つ企業が後続プロジェクトの受注で優位に立つとの見通しが示されている。
課題も指摘される。100カ所余りに分散した設備を安定的に施工・管理する現地運営体制が、供給実績と同じくらい重要な試金石になるという。技術仕様と現地文化の理解を組み合わせた今回の受注方式が、中東以外の市場にも広がるかどうかは、今後の供給成果次第とみられている。