9月1日、アップルに新しい舵取り役が就く。15年間にわたり同社を率い、時価総額を約3兆6000億ドル(約5000兆ウォン)まで押し上げたティム・クックが退き、その座にジョン・ターナス(51)が座る。韓国ではあまり知られていない名前だ。華やかなステージでの発言も、派手な裏話もない。しかし、いま皆さんの手元にあるiPhoneや机の上のMacBookは、その多くがこの男の手を経て生まれた。
ターナスは米ペンシルベニア大学で機械工学を専攻した。学生時代、彼が輝いていたのは机の上より水の中だった。大学の水泳選手として50メートル自由形と200メートル個人メドレーで優勝した記録を持つ、学内でも名の知れた選手だった。スポットライトの代わりに、黙々と記録を積み重ねる性格は、やがて彼の仕事の流儀になった。
1997年の卒業後、彼は仮想現実(VR)ヘッドセットを作る小さな会社でエンジニアとしてのキャリアを始めた。アップルに加わったのは2001年。最初の任務は華やかさとは程遠い、Mac用モニターの設計だった。スティーブ・ジョブズがiPodで世界を驚かせていた同じ年、ターナスは会社の片隅で部品と格闘する新人エンジニアだった。
25年が過ぎる間に、彼の手が入っていないアップル製品を探すほうが難しい。iPadは初代モデルからすべての世代を彼が監督した。最新のiPhoneシリーズ、ノイズキャンセリングを搭載したAirPods、厚さ5.6ミリの超薄型iPhone Airも、いずれも彼の作品だ。
なかでも最大の功績は「Apple Silicon」だ。アップルは2020年、Macの頭脳をインテル製チップから自社設計のMシリーズチップへと切り替えた。コンピューターの心臓を丸ごと置き換える危険を伴う大手術だったが、その結果は、コンピューティング史上もっとも成功した移行の一つと評価されている。そのプロジェクトを率いたのがターナスだ。
昇進の階段も着実に上った。2013年にハードウェアエンジニアリング担当副社長、2021年に上級副社長となり、iPhone、iPad、Macの全製品群を統括した。ここ数年、アップルの新製品発表ステージに彼が頻繁に登場するようになったのも偶然ではなかった。
会社はかなり以前から彼を次のリーダーに据えるつもりで準備を進めてきた。その結果、昨年のiPhone新製品発売日にはロンドンの店舗に自ら出向き、客を迎える姿もあった。
ターナスの就任が重みを持つのは、彼がエンジニアだからだ。アップルは創業者スティーブ・ジョブズ以来、初めて製品を技術的に理解するCEOを迎える。会計の専門家出身で、サプライチェーンと経営の達人だったティム・クックとは性格が異なる。
仕事の進め方も対照的だ。クックが複数の幹部の意見を集めて合意で決めるスタイルだったのに対し、ターナスはより断固としていると評される。彼はCEOの座に正式就任する前から、すでに会社を変え始めている。
2019年にデザイン責任者のジョナサン・アイブが去って勢いを失っていたデザインチームを立て直し、引退していたハードウェア幹部のローラ・ラグロを呼び戻した。方向性は明確だ。華やかな美学よりも、バッテリー持続時間や性能、接続性など実用性を前面に出すということだ。
彼を待ち受ける最大の課題はAIだ。輝かしい経歴にもかかわらず、前途は平坦ではない。アップルは人工知能(AI)競争でオープンAIやグーグルに遅れているとの評価を受けている。Apple Intelligenceの中核である音声アシスタントSiriの刷新も、たびたび先送りされている。25年間ハードウェアを作ってきた彼が、今度はソフトウェアとAIという慣れない戦場で勝負しなければならない。
ターナスは焦らない。彼はAI競争を「短距離走ではなくマラソン」と表現する。今は遅れていても、粘り強く追いかければ最終的に先に立てるという考えだ。立ち上がりは地味だったものの、いまでは広く使われているApple Mapsを例に挙げ、「ビジョンを持って粘り強く取り組めば、悪い出発を素晴らしい結果に変えられる」とも語っている。新製品カテゴリーを最初から成功させた経験がないという指摘は、彼が実績で塗り替えるべき疑問符だ。
前任のクックは完全には去らない。会長として残り、各国の政策当局との関係を担う。製品はターナスが、政治はクックが分担する構図だ。スポットライトを追い求めなかったエンジニアが、世界で最も高価な企業の顔になった。
これまで彼が作ってきたのは、手に取れる機械だった。だが、これから証明しなければならないのは目に見えないAIだ。水の中で黙々と記録を積み重ねてきた水泳選手の次のレースが始まった。