[深層]マスク銘柄が2つに増える、テスラ株主が喜べない理由
これまで、一般投資家がイーロン・マスクの野心に資金を投じる手段は、事実上ひとつしかなかった。電気自動車会社テスラの株を買うことだ。 その一本道が、まもなく二つに分かれる。マスク率いる宇宙企業スペースXの上場が目前に迫っているためだ。米ウォール街は、この変化をテスラ株主にとって少なからぬリスク要因と受け止めている。 スペースXはロケットを打ち上げ、人工衛星を運用する企業だ。これまで未上場だったため、一般投資家は株を買えなかった。上場すれば状況は変わる。マスクという一人の人物に賭けたい資金の行き先が、テスラ以外にももう一つ生まれることになる。 ウォール街の専門家が注目するのは、投資家の関心と資金がテスラから流出する可能性だ。 インテグリティ・アセット・マネジメントのポートフォリオマネジャー、ジョー・ギルバート氏は、今回の上場がテスラにとって追い風にはならないと言い切った。マスクの視線が新会社のほうに向かうとの懸念だ。 同氏は、マスクが過去に複数の事業を同時に率いたことはあるが、今はスペースXがテスラを上回ってマスクの新たな“お気に入り”になったように見えると分析した。 この懸念は根拠のないものではない。テスラ株のおよそ40%は個人投資家が保有している。機関投資家ではなく、一般の人々が株価の半分近くを支えているということだ。彼らの多くは、テスラの事業性よりもマスクという人物そのものを見て株を買っている。 BNPパリバのアナリスト、ジェームズ・ピカリエロ氏は、スペースX上場によってマスク支持の個人株主層が二分され、テスラ株価を押し下げるとみている。仏系投資銀行BNPパリバは、テスラについて市場平均を下回るリターン、すなわち株価が市場平均程度にすら上がりにくいとの見方を示している。 スペースXが他社と一線を画す点も明確だ。テスラと事業領域が重ならず、属する分野で確かなリーダーであり、成長余地も大きいと評価されている。ギルバート氏は、スペースXには真の競争相手がいないと表現した。同じマスクの会社でも、投資妙味の質は違うというわけだ。 テスラ株を理解するには、まず一つの事実を知っておく必要がある。株価は実際に稼ぐお金だけでは説明できない。 テスラの事業成績は決して明るくない。販売の伸びは鈍化し、基礎体力を示す指標も以前ほどではない。株価は今年に入って8.8%下落した。 それでも、今後1年の予想利益を基準にした株価水準は、なお利益の196倍に達する。米国の代表的な500社を束ねるS&P500指数の中でも、2番目に高い水準だ。 この高い評価を支えているのは数字ではなく期待だ。マスクがテスラを電気自動車会社ではなく、自動運転車とロボットをつくる企業へ変えるという信念である。 テスラのFSD(出典 X @teslaZoa キャプチャ) ニック・コラース氏のように、データトレック・リサーチ共同創業者は、通常の企業では株価に現在価値と将来価値が半々程度反映されるが、テスラでは未来への希望が90%を占めてきたと説明する。会社の現在ではなく、マスクの構想に価値が付けられているという意味だ。 しかし、マスクが描く未来の通り道にはすでに競争相手がひしめいている。電気自動車事業は海外では中国メーカーと、米国内では従来の内燃機関車と競っている。 無人タクシー事業は、グーグル親会社アルファベットのウェイモと競合しているが、ウェイモはすでにサービスを展開している。人間に似たロボットも、多くの技術企業が参入する分野だ。 テスラの時価総額は約1兆5000億ドルと競合を圧倒しているが、その差が永遠に続く保証はない。電気自動車と無人タクシー分野の主要競合とされるリビアンとウーバーの時価総額を合わせても、1700億ドル程度にとどまる。 問題は、その期待が完全にマスク一人にかかっていることだ。 ニック・コラース氏の見方はさらに踏み込む。テスラの価値が会社の業績ではなくマスクの夢に値付けされているなら、同じ魅力を持つ会社が市場に二つ存在する理由はあまりない、というわけだ。 相談を受ければ、すべての事業を一つ屋根の下に置くべきだと助言するだろうと同氏は述べた。人々が買いたいのがマスクのビジョンなら、会社を一つにまとめたほうが単純で明快だという論理だ。マスクがテスラとスペースXの合併を検討しているとの観測が出る背景でもある。 もっとも、すべての見通しが暗いわけではない。異なる視点の分析もある。タイガリス・ファイナンシャル・パートナーズの最高投資責任者、アイヴァン・ファインセス氏は、スペースX上場がかえって「マスク・エコシステム」という物語そのものを強める可能性があるとみている。 ...
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